たん左うしろへ流れた島の火が、また正面近くへもどって来たではないか。
「おもー舵いっぱい」
「そのとおり、おも舵いっぱいなんですが、船が逆にまわっています」
「そんなばかなことがあるか。お前は何年舵をとっているんだ」
 と、船長は操舵手を叱《しか》りつけながらも、なんだか背すじに寒さがはしるのを感じた。
 そのときだった。舳《へさき》の方で、ごとんとはげしい音がして船が何か大きなものにぶつかったようす。エンジンが苦しそうにあえぐ。
「どうした。何だい、ぶつかったのは……」
 船長はブリッジから顔を出して、雨にうたれるのもかまわず、舳の方へ声をかけた。
 するとその方からの返事はなく、そのかわり、船橋の上の無電甲板から誰かさけんだ。
「船長。船の上に、何かいますよ」
「なにッ。何がいるって」
「メインマストの上のあたりをごらんなさい。なにか黒い大きなものが立っています。竜巻《たつまき》かな、いや竜巻じゃない」
 船長はおどろいて、メインマストが見えるところまで船橋の上を大またでとんで行って、上をあおいだ。
 そのとき、ぎょォううッというようなあやしい声を上の方で聞いた。
 と思ったとたん
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