って生きていられまい」
「なるほど。それで安心しました」
「しかしその恐竜が死んだという確証《かくしょう》はない。では、さよなら、ボールイン船長」
 伯爵は握手をもとめて、ボートの方へおりていった。
 そのとき西の方から、急に強い風が吹き起った。見ればまっくろな嵐の雲が、こっちへ動いて来る。雲の中でぴかりと、稲光《いなびかり》が光った。
 舷側《げんそく》を、とがった波がたたきつけている。


   とつぜん怪物|出現《しゅつげん》


「やれやれ、かわいそうに。ボートは大波にゆすぶられてすぐには島へつけないだろう」
「もう一時間おそく、本船を放れりゃよかったのになあ」
「とんでもない。こんなおそろしいところに、あと一時間もまごまごしていられるかい」
 船長は、すばやく防水帽をかぶって、微速《びそく》前進の号令をかけた。
 ばらばらと、大粒の雨が落ちて来た。
「半速。……おもー舵《かじ》いっぱい」
 船がぐるっとまわりはじめる。島の火が、左うしろへ流れていく。
「おや船長。どういうんだか。舵がよくききませんが……」
 操舵手《そうだしゅ》がうしろでさけんだ。
 なるほどそういえば、いっ
前へ 次へ
全212ページ中70ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング