取れてしまって、のぼることが出来ないのであった。いくども場所をかえてやってみたが、どれもだめであった。
「ああ、のぼれないのか」玉太郎は、くやしがって、斜面をにらみつけた。しかしにらみつけたぐらいで、どうなるわけのものでもなかった。
 彼はその場所に、二時間あまりも待っていた。彼はたえず崖の上を注意し、もしやラツールが顔を出しはしないかと心待ちにしていた。ラツールの名を何十回となく呼んだ。だがラツールは姿も見せなければ、返事もしなかった。心ぼそさがひしひしと玉太郎の胸をしめつけた。たえがたいほどの蒸《む》し暑《あつ》さの密林の中に、人間を恐ろしいとも思わぬ蠅《はえ》や蚊《か》や蟻《あり》の群とたたかいながら、二時間のあまり、同じところにじっとしていることは、それだけでもたえがたいことだった。
 玉太郎はあきらめて、そこを立ちさった。彼は密林の中をくぐって、元の海岸へ出た。もしやそこにラツールが、先にかえって来ているのではないかと心だのみにしていたがそれもやっぱりだめだった。
 海岸にまっていたのは、やぶれた筏だけであった。
 彼は、砂の上に腰をおろして、ぼんやりと考えこんだ。
 ラツー
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