と思うと、もう雲が切れて、もうもうと立ちのぼる水蒸気に、明るく陽の光がさしこんで来た。気温は、またぐんぐんとのぼり出した。視界がひらけた。
「おや。あんなところに崖が見える」
どこをふみまよったものか、スコールがあがってみれば玉太郎はとんでもないけんとうのところに立っていた。さっきすべりおちた崖の斜面《しゃめん》のしたから、百五十メートルばかりもはなれたところに立っていたのだ。彼は斜面の下へむかって急いで歩いた。
歩きながら、斜面をいくども見下げた。そのとき彼は、不審《ふしん》の念《ねん》にうたれた。「ラツールさんの姿が見えないが、どこへ行ったんだろうか。斜面をすっかりのぼって、崖の上へ出たのかしらん」
斜面にはラツール記者の姿がなかったのである。ラツールといえば、彼はスコールの中に降りこめられ、斜面のまん中あたりで、進退《しんたい》きわまっていたのだったが、今はどこにいるのだろうか。
「そうだ。この斜面を自分ものぼってみよう」
玉太郎は、そう思って、再び斜面をのぼりかけた。
だがそれはだめだった。斜面は雨水をうんとすいこんで足をかけ、手をおいたところは、いずれも土がごそっと
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