れた木と木の間へ顔をさしこんで、落ちていく水にまけないような大きな声で、愛犬の名をいくたびとなく呼んでみた。だが、ポチは主人のために返事をしなかった。
迫《せま》るさびしさ
玉太郎はがっかりした。
しかしこういう穴の入口らしいところを見つけたことは一つの成功だと思った。あとでゆっくり中をしらべてみたい。
そう思って、彼はそこを立ちさろうとしたが、ふと思い直して、もどって来た。そしてそこらに落ちている木の枝を一本取り、ナイフでけずってYという形にし、それをそこの場所につきさした。それからYという字のかたつむりの二つの目のような枝のさきをわって、自分のシャツの端《はし》をひきさいて、はさんだ。こうしておけば、スコールがあがったあとも、この場所へもどって来るのにいい目印《めじるし》になる。
それから玉太郎は、にわかの川について、上流の方へもどっていった。彼は、さっき落ちた崖下へもどるつもりであった。しかしどうしたわけか、そこへもどることが出来ず、川にそって上ったり下ったりしてまよった。そのうちに時間がたった。
スコールが通りぬけたらしく、急に雨が小降《こぶ》りになった
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