も見あたらないことだ。
「なぜこんな崖をつくったんだろうか。いみが分らない」
「それなら、崖の上までのぼって見てはどうでしょうか。上に行くと、きっとなにかありますよ」
「なるほど。崖というものは、下より上の方が大切なのかもしれない。じゃあ、のぼってみよう」
 その後ポチの声がしないので、ポチのはいりこんだ穴をさがすことはあとまわしとして、玉太郎はラツール記者とともに、崖の斜面をはいのぼっていった。
 しばらくのぼったとき、ぽつッと冷いものが玉太郎の顔をたたいた。
「おやあ」と上を見ると、いつの間にか空が鼠色《ねずみいろ》の雲でひくくとざされている。そして大粒の雨が、急にはげしくふりだしたのだ。
「あ、スコールがやって来た。あいにくのときに、やって来やがった」
 ラツールは舌打ちした。
「あ、すべる」玉太郎がさけんだ。崖の斜面は、滝のようになって雨水が流れおちた。玉太郎は手と足とをすべらせてしまった。その結果、玉太郎のからだは雨水とともにずるずると下へすべり落ちていった。
 すごいスコールのひびきに、玉太郎よりすこし上をのぼっていたラツールは、玉太郎のすべり落ちたことを知らなかった。彼は
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