《はらわた》にしみわたる。世の中にこんなうまいものがあったことをはじめてしった喜びに、玉太郎はその場で死んでもいいと思ったほどだ。
「どうだ、いけるだろう」
ラツールは、もう一つの椰子の実をさきながら、玉太郎にきいた。玉太郎は、かすかにうなずいただけで、椰子の実からくちびるをはなしはしなかった。
だが、ようやくのどのかわきがとまる頃になって、玉太郎は椰子の水が特有ななまぐさいにおいを持っていることに気がついた。それは、かなりきついにおいであった。でも玉太郎はくちびるをはなさなかった。ついに最後の一滴まで飲みほした。
「ああ、うまかった。じつに、うまかった」
玉太郎は胸をたたいて、はればれとした笑顔になった。ラツールの方を見ると、ラツール先生は、両眼をつぶって夢中になって椰子の実の穴から水をすすっていた。水がぽたぽた地上にたれている。
それを見ると、玉太郎はポチのことを思い出した。ポチものどがかわいたであろう。水がのみたかろう。ポチにももらってやりましょう。あたりを見たが、ポチの姿は見えなかった。
「ポチ。ポチ」
玉太郎は愛犬の名を呼び、口笛をくりかえし吹いた。だが、どうしたわ
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