のをしている。足でぽかんとけとばしているのは、丸味《まるみ》をおびた椰子の実であった。
「これならいいだろう。まだすこし青いから、最近おちたものにちがいない」
 ラツールはその実をかかえてきて、玉太郎から借りたナイフで皮をさいた。皮はそんなにかたくない。中心のところに、チョコレート色のまん丸い球がおさまっていた。彼は、そこで実をかかえて、実のへたに近い方に穴を二つあけた。そこはすぐ穴があくようになっているのである。
 それがすむと、ラツールは椰子の実をかたむけた。すると、穴からどくんどくんと光をおびたきれいな水かこぼれ落ちた。彼は、それをちょっとなめて首を前後にふった。
「これなら我慢ができるだろう。この椰子の水は、すこしくさいが、毒じゃないから、安心して腹いっぱい飲みたまえ。あまくて、とてもおいしいよ」
 そういってラツールは、椰子の実を玉太郎に手わたした。
 玉太郎はそれをうけとって、椰子の水がしとしとと流れだしてくる穴に唇をつけて、すった。
(うまい!)
 玉太郎は心の中で、せいいっぱいの声でさけんだ。ごくりごくりと、夢中ですすった。うまい、じつにうまい。あまくて、つめたくて、腸
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