の切目《きれめ》の中に小さい砂がはいりこんで、やがて激痛《げきつう》をおこすことになる。さらにその後になると、傷口からばい菌がはいって化膿《かのう》し、全く歩けなくなってしまう、熱帯地方では、傷の手当は特に念入りにしておかないと、あとでたいへんなことになるのだ。ラツールも、もう一度筏の上にはいのぼり、それから彼はあたりをさがしまわったあげく、ナイフで、カンバスに黒いタールがついているところを裂《さ》き、そのタールのついているところを玉太郎の傷口にあてた。そしてその上を、かわいたきれでしっかりとしばった。上陸するときは、この傷が海水につかるのをきらい、玉太郎を頭の上にかつぎあげて海をわたり、やがて海岸のかわいた上に、そっと玉太郎をおいた。
 ラツールの全身には玉なす汗が、玉太郎の目からは玉のような涙がぽろぽろとこぼれおちた。
「君は、感傷家《かんしょうか》でありすぎる。もっと神経をふとくしていることだね。ことに、こんな熱帯の孤島では、ビール樽《だる》にでもなったつもりで、のんびりやることだ」
 そういって玉太郎の両肩にかるく手をおいた。
「さあ、そこでさっきの仕事を大急ぎでやってしまうん
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