だ。そこから枯草のるいをうんと集めてきて、山のように積みあげるんだ。もし今にも沖合《おきあい》に船影が見えたら、さっそくその枯草の山に火をつけて、救難信号《きゅうなんしんごう》にするんだ」
「はい。やりましょう」
 二人はさっそくこの仕事にかかった。榕樹《ようじゅ》は海の中にまで根をはり、枝をしげらせていた。椰子は白い砂浜の境界線のところまでのりだしていた。椰子の木の下には、枯葉がいくらでもあった。
 その枯葉をかつぎ出して、砂浜の上に積《つ》んでいった。よほど古い枯葉でないと、自由にならなかった。なにしろ椰子の葉は五メートル位のものは小さい方であったから、その新しい枯葉は小さく裂くことができないから、とても一人では運搬《うんぱん》ができなかった。古い枯葉なら、手でもって、ぽきんぽきんと折れた。
「ああ、のどが乾いた。水がのみたいなあ」
 玉太郎がいった。
「今に、うんと飲ませる。その前にこの仕事を完成しておかねばならない。だって、命の救い船は、いつ沖合にあらわれるかしれないからね。しばらく我慢するんだ」
 ラツールは、一刻も早く枯草積みをやりあげたい考えで玉太郎を激励し、きびしいこと
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