った。まずこの筏を海岸の砂の上へひっぱりあげることだ。このおんぼろ筏でも、われわれが今持っている最大の交通機関であり、住みなれたいえ[#「いえ」に傍点]だからね」
「竿《さお》かなんかあるといいんだが。ありませんねえ。筏の底が、リーフにくっついてしまって、これ以上、海岸の方へ動きませんよ」
「よろしい。ぼくが綱を持ってあがって、ひっぱりあげよう」
「やりましょう」
 空腹も、のどのかわきも忘れて、二人は海の中へ下りた。浅いと思っていたが、かなり深い。ラツールの乳の下まである。玉太郎はもうすこしで、顎《あご》に水がつく。
「痛い」
 玉太郎が顔をしかめた。彼は足の裏を、貝がらで切った。靴を大切にしようと思って、はだしになって下りたのが失敗のもとだった。
「うっかりしていた。もちろん、こういう場合は、足に何かはいていなくては危険だよ。さあもう一度筏の上へあがって、足の傷を手あてしてから上陸することにしよう」
 つまらないところで、上陸は手間どった。しかしラツールの行きとどいた注意によって、玉太郎は、あとでもっとつらい苦しみをするのを救われたのだ。それは、足の裏を切ったまま砂浜にあがると、そ
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