島に上陸できると思った喜びが、ひょっとしたら消えてしまいそうであるので、だんだん心細さがます。
「はははは。まだ、あの島が恐竜島だときまったわけじゃないんだから、今からそんなにこわがるには及ばない」
 ラツールは笑った。だが、彼が笑ったのは、玉太郎をあまり恐怖させまいがためだった。だから彼の顔からは、すぐさま笑いのかげがひっこんで、顔付《かおつき》がかたくなった。彼は島の上へするどい視線《しせん》をはしらせつづけている。
「分らない、分らない。恐竜島のように思われるところもあるが、またそうでもないようにも思われる。まん中に背中をつき出している高い丘の形は、たしかに、この前見た水夫ヤンの写生図に出ていた図そっくりだ。しかし丘のふもとをとりまく密林や海岸の形がちがっている。あんなに密林がつづいていなかったからなあ。海岸から丘までが、ひろびろと開いていた。あんな石垣も、水夫ヤンの図には出ていなかったがなあ」
 ラツールは、ひとりごとをいうのに、だんだん熱心となって、そばに玉太郎がいることに気がつかないようであった。
「あれは恐竜島か、それともちがうのか。いったいどっちなんだ。ふん、おれの頭は
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