熱帯ぼけの上に漂流ぼけがしていると見える。どっちかにきめなきゃ、これからやることがきまりゃしない。どっちかなあ、どっちかなあ……ええい、こんなに心の迷うときには、金貨うらないで行けだ。はてな、その金貨だが、持ってきたかどうか……」
ラツールは、ズボンのポケットへ手をつっこんだ。しばらくいそがしく中をさぐっていたが、やがて彼の顔に明るい色が浮んだ。
「やっぱり、大事に、身につけていたよ」
彼の指にぴかりと光るものが、つままれていた。百フランの古い金貨だった。それを彼は指先でちーんとはじきあげた。金貨は、彼の頭よりもすこし高いところまであがって、きらきらと光ったが、やがて彼のてのひらへ落ちて来た。そのとき筏がぐらりとかたむいた。大きなうねりがぶつかったためだ。
「ほウ」
ラツールは、金貨をうけとめ、手をにぎった。彼はそっと手を開いた。すると金貨は、てのひらの上にはのっていなかった。中指とくすり指との間にはさまっていた。これでは金貨の表が出たことにもならないし、また裏が出たことにもならない。せっかくの金貨のうらないは、イエスともノウともこたえなかったことになるのだ。
「ちぇッ。運命の神
前へ
次へ
全212ページ中33ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング