う。
「もうあの島には、人が住まなくなったのでしょうか」
「それにしては、あの石垣がもったいない話だ」
 夕焼の空は、赤から真紅《まっか》に、真紅から緋《ひ》に、そして紫へと色をかえていった。それまでは見えなかったちぎれ雲が生あるもののようにあやしい色にはえ、大空から下に向って威嚇《いかく》をこころみる。
 島の丘の背が、赤褐色《せっかっしょく》に染って、うすきみわるい光をおびはじめた。
「おやあ、これはちょっとへんだぞ」ラツールがさけんだ
「どうしたんですか」
「この島は、恐竜島《きょうりゅうとう》じゃないかなあ。たしかにそうだ。あのおかを見ろ。恐竜の背中のようじゃないか。気味のわるいあの色を見ろ。もしあれが恐竜島だったら、われわれは急いで島から放れなくてはならない」
 ラツールは、ふしぎなことをいいだした。彼の恐れる恐竜島とは何であろうか。


   水夫《すいふ》ヤンの写生画《しゃせいが》


「恐竜島ですって。恐竜島というのは、そんなに恐ろしい島なの。ねえ、ラツールさん」
 玉太郎は筏の上にのびあがり、顔をしかめて島影《しまかげ》を見たり、ラツールの方をふりかえったり。せっかく
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