」
「こぐったって、橈《かい》もなんにもない」
風と海流の力によるしかない。
「家らしいものは見えないね。煙もあがっていない」
島の方をながめながら、ラツールは失望のていである。
「無人島《むじんとう》でしょうか」
「どうもそうらしいね」
「人食《ひとく》い人種がいるよりは、無人島の方がいいでしょう」
「それはそうだが、くいものがないとやり切れんからね」
二人は、日が暮れるのも忘れて、夢中になって島をながめつくした。
「ほう、無人島でもないようだ」ラツールが、声をはりあげた。
「人がいますか」
「いや、そんなものは見えない。しかし島の左のはしのところを見てごらん。舟《ふな》つき場《ば》らしい石垣が見えるじゃないか」
島は中央に、山とまではいかないが高い丘がとび出していて、それが方々にとんがっている。そのまわりは一面に深い密林だ。椰子もあるし、マングローブ(榕樹《ようじゅ》)も見える。その間に、ところどころ白い砂浜《すなはま》がのぞいている。ラツールが発見した石垣は、ずっと左の方にあり、なんだかそこが、密林の入口になっているようでもある。正確なことは上陸してみれば、すぐ分るであろ
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