らん」
「ああ、それはほんのすこしばかりしか手に入らなかった。おお、そうか。君は腹ぺこなんだね」
「早くいえば、そうです」
「なんだ、えんりょせずに早くいえばいいのに。よし、ごちそうするよ、待っていたまえ」
「いや、筏の組みかえがすんでからで、いいんです」
「そうかね。じゃあ筏の方を急ごう。なんだかあそこに、いやな雲が見えるからね、仕事は急いだ方がいいんだ」
ラツールのさす南西の方角の空が、いやに暗かった。黒い雲が重々しくより集まっている。熱帯に特有のスコールの雲だろう。
そのうちに筏の方は出来あがった。
前よりは大して広くはない。しかし支棒《ささえぼう》がしっかりはいったり、板が二重三重になり、筏はずっと堅牢《けんろう》に、そして浮力もました。大きなかげもできた。
「よろしい、そこで休もう。お茶の時間を開くことにしよう」
それを聞いただけで、玉太郎の腹がぐーぐー鳴った。のども、いやになるほど鳴った。
ラツールはその缶を二人のあいだにおいた。
「どれでも気にいったのをたべたまえ。すこし塩味《しおあじ》がつきすぎているものがあるかもしれないがね。それから、君がたくさんたべすぎて
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