も叱《しか》らないよ」
 ラツールは笑って缶の中をさした。
 玉太郎がのぞくと、空缶《あきかん》の中には、りんごとオレンジが四つ五つ、肉の缶詰のあいたのが二つばかり、それに骨のついた焼肉《やきにく》がころがっていた。すばらしいごちそうだ。
「ポチにたべさせるものはないでしょうか」
 玉太郎がたずねた。
「ああ、ポチならあっちでよろしくやっているよ。あれを見たまえ」
 ラツールのさす方を見れば、なるほどポチが帆の向こうがわで、ひしゃけた缶の中に頭をつっこんで、しきりにたべていた。


   暴風雨《あらし》来《きた》る


 ラツールが苦心をして拾いあげた食料品を、玉太郎は世界一のごちそうだと思いながら、思わずたべすごした。
「どうだ、塩味がききすぎていたろう」
「いや、そんなことは分りませんでしたよ」
 みんな海水につかっていたのだ。缶詰も、穴があいて浮んでいたのだ。しかし腹のへりすぎた玉太郎には、そんなことはすこしも苦にならなかった。
「もっとたべていいよ。そのうちには、どこかの船に行きあって、助けられるだろうから」
「もう十分たべました」
 ポチは、まだ缶の中に頭をつっこんだきりで
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