け話だ。ここじゃ工合がわるい。こっちへ来い」
モレロは、なぜか急に声をおとして、二人の水夫のうしろの岩かげへひっぱっていった。
あとには実業家マルタンひとりが、上に取り残された。彼は、モレロのやっていることに気がつかないような顔をしていたが、実はすっかり知りぬいていたし、モレロのこれからやろうとすることにも見当がついていた。彼は不安を感じて、胸さわぎがおこった。
彼は崖のはしまでいって下をのぞいた。この崖を水面まで下りていって、行方不明の伯爵をさがしにいった玉太郎たちの姿が見えるかと思ったのだ。だが、玉太郎の一行は見えなかった。もし見えたら、マルタンはすぐ信号を送って、彼らをしきゅうひきかえらせるつもりだった。今なら、モレロや、その手下のような二人の水夫に知れずに、合図《あいず》を送ることができたのだが、見えないとは残念であった。
玉太郎たち四人は、浪の洗う岩根をふみこえ、伯爵の姿か又は所持品かを発見するために努力をつづけた。
だが、いくら探しても、伯爵の姿はなかった。このへんに伯爵の身体がなくてはならないところにも、まったく何も落ちていないのであった。
一時間あまりを空費
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