え、張さん」と玉太郎が説明の役にあたった。
「伯爵は、とつぜんロープに下って下りてきたのです。ところがそのロープにはダビットさんとラツールさんがとりついていたもんだから、三人の人間の重味《おもみ》にはたえられなくなって、ぷつりとロープが切れたんです」
「ほう、ほう」
「上の方にいた伯爵は、もんどりうって一番下まで落ちました。なぜそんなむちゃを伯爵がしたのか分りませんが、ぼくが感じたところでは、伯爵はなにかにおどろいたためだと思います」
「なにかにおどろいたとは?」
「その前に、伯爵はひとりで、洞窟のあちこちを見まわしていましたがね、そのうちにおどろきの声とともに何か一言みじかいことばをいって、ロープへとびついて下りようとしたのです」
「短いことばというと……」
「ぼくは、よくおぼえていないのですが、なんでも、“あ、見えた、金貨の箱だ”といったように思ったんです」
「えっ、金貨の箱」
張がおどろいたばかりか、それに聞き耳をたてていた二人の水夫も、つとばかりに仕事の手をとめた。
モレロは、もっとはげしくおどろいたと見え、満面朱《まんめんあけ》にそめると、一本のロープをとりあげて、自らい
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