につつまれてしまった。
 マルタンは指揮をとる。
「さあ、作業はじめだ。ロープを、まず四本は、下へおろさなくてはならない。そこらにしっかりした岩を見つけてロープの端をしばりつけるのだ」
「見物はあとにして、こっちへ集って下さい」
 と、玉太郎がさけぶ。
「いいきみだ。へいぜい、えらそうな口をきいた連中も崖の中段で小さくなっているじゃないか。うわはははは」
 モレロは毒舌《どくぜつ》をふるう。
「モレロ君。君は自分の分を、このロープでくくりつけたまえ」
「わたしはいやだよ。下に下りる気はない」
「ほんとかね。わしはかけをしてもいい。今に君は、きっと下へ下りるだろう」
「とんでもないことだ。しかしあの恐竜をたねに、なんとか金もうけを……うむ、むにゃむにゃむにゃ」
「では、張さん。あなたは身体がかるいから、水夫がおろしたロープで、先へ下りて下さい。なあに、下の連中に、元気のつくような話をしてくれれば、それでいいんですよ」
 マルタンは張にいった。
「伯爵の姿は見えんですね」
「そうです。張君。玉太郎君の話によると、一番下まで落ちたそうです」
「どうして彼ひとりが落ちたんですかな」
「それはね
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