生けんめい見まわした。しかし汽船の灯火は一つも見えなかった。
「僕とポチを海の中へつきおとしたまま、モンパパ号は、どんどん先へ行ってしまったんだな」
玉太郎は、そう考えた。
そう考えるのもむりではなかった。モンパパ号はあまりにも完ぜんに爆破粉砕《ばくはふんさい》したので、そのころ海上には破片一つも見えてはいず、海上はまっくらで、墓場《はかば》のように静かであった。ただ、ときどき波が浮かぶ扉にあたってばさりと音をたてることと、頭上には美しく無数の星がきらめいていて、玉太郎とポチをながめているように見えるだけであった。
「そうだ。ラツールさんも、あのときいっしょに居たっけ、ラツールさんはどうしたかしらん。まさかあの人が僕たちを海へつきおとしたんじゃないだろうに……」
分らない。見当《けんとう》がつかない。モンパパ号がとつぜん大砲をうったため、自分たちはそれがためにはねとばされたのかな……とも考えたが、しかしモンパパ号は大砲をすえていなかったことは明らかだったから、これは考えちがいだ。やっぱり分らない。わけが分らない。
玉太郎の両手がだんだん疲れてきた。また始めはなんともなかった海水
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