が、いやに冷いものに感じられるようになった。熱帯の海だというのに、ふしぎなことだった。
 もうどうにも両手が痛くなって、扉にすがっていられなくなった。片手ずつにしてみた。しかしかえって疲れていけなかった。潮をがぶりがぶりとのんだ。つい、ずぶずぶと沈んでしまって、あわてるからだ。そのたびにポチがさわいだ。
「これはいけない。海に負けてはいけない。夜が明けるまでは、この扉をはなしてはだめだ」
 工夫はないかと考えた。
 やっと思いついたことがある。首にかけていたナイフの紐《ひも》を利用することだった。首から紐をはずして、扉のふちに割れているところがあるので、そこへ紐を通してくくりつけた。それから紐のあまりを、一方の手首にまきつけて端《はじ》をむすんだ。
 これはいいことだった。紐の力で、浮かぶ扉にぶらさがっているわけであった。手の筋肉は疲れないですんだ。そのかわり紐が手首をしめすぎて、少し痛くなった。玉太郎は考えて、紐と手首の間に、シャツの端をおしこんで、痛みをとめた。
 睡《ねむ》くなった。睡くてどうにもやり切れなくなった。ポチがしずかなのも、ポチも睡くなって睡っているのかもしれない。

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