って下りようとしているのだった。ケンはおどろいた。玉太郎も、とっさのこととて伯爵をとめるひまがなかったものと見える。
悲劇は、次のしゅんかんにやってきた。
ぷつり!
ロープは、岩鼻の角《かど》にこすれたところから、もろくも切断した。
めいめいの悲鳴。
ケン監督がロープの下へかけよって、両手を上へつきだしたのと、その腕の中へラツールとダビットの重い身体がどさりと落ちて来たのとがほとんど同時であった。三人は餅《もち》のように重なって岩の上にたおれた。
それにつづき、ほんのちょっとのあいだをおいて、はるか下の方で、どぼーンという大きな水音が聞え、そのあとには、わんわんと、気味のわるい反響が長くつづいた。
伯爵がもんどりうって海水の中に落ちたのであった。
上の岩鼻には、玉太郎がひとりいた。
玉太郎はとほうにくれてしまった。
ロープは切れた。そして下におちた。三人は岩壁《いわかべ》の中段に残った。セキストン伯爵は海中に落ちこんだ。どうすればいいだろう。
まず老伯爵の安否《あんぴ》が気づかわれたので、玉太郎は岩鼻からのびあがって、一生けんめいに老人の姿をさがしもとめた。だがと
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