ちゅうに岩がとび出していて、伯爵が落ちたあたりは見えなかった。
 それでは中段にとりのこされたケンとダビットと衰弱しているラツールを救うために、玉太郎は手もとにのこっていたロープをといて、下にたらしてみた。だがロープは短すぎて、その高さの半分もとどかなかった。
「ああ、こまった。どうすればいいだろう」
 四人の生命があやういのだ。玉太郎だけが自由をもっている。そして四人の生命があやういことを知っているのは、玉太郎だけであった。
「ぼくは責任重大だ。おちつかなくちゃ……」
 と、彼は自分の心をげきれいした。
 もうこうなれば、うしろへひきかえして隊員を呼んでくるほかない。玉太郎は、そこでケンたちとれんらくをとり地下道を急いで元来た方向へとってかえした。
「そうだ。多分、あの沼のところに、ツルガ博士とマルタン氏がいるはず……」
 地下道をついに抜け、崖をすべり下りて、沼の畔《ほとり》まで来た。
 と、彼はそこに、なんともわけの分らないきみょうな光景にお目にかかった。
 その沼畔《ぬまほとり》に、ツルガ博士親子が身体をぴったりよせあっている。そして小さい竪琴《たてごと》を、ぽろんぽろんとしず
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