岩にぐるぐるぐるとかたく巻きつけた。これならもう大丈夫だ。
「わしが下りよう」
 伯爵がケンをおしのけていった。
「とんでもない。ぼくが下ります。注射もしなくてはならないのです」
「いや、わしだって注射はできるぞ」
「まあまあ。ここでまっていて下さい」
「そうかね。それでは行って来たまえ。そしてすんだらすぐ上ってくれ。下でぐずぐずしたり、余計なよそ見をするんじゃないよ」
「なにをいうんですかい、おじいちゃん」
 そのとき、ケンは伯爵の気持を知らなかったので、笑いでうち消した。
 ケンはするするとロープをつたわって下へおりた。そしてダビットを手にして[#「ダビットを手にして」はママ]ラツールの身体にいく本かの注射をうった。ラツールの顔が赤い色にもどった。心臓も強くうちはじめ、呼吸もしっかりして来た。
 もうだいじょうぶと思われた。


   悲劇は来《きた》る


 だが、ラツールはひとりで立っている力はまだなかった。たいへん衰弱《すいじゃく》していたのだ。
「どうするかね、ケン」
 と、ダビットは、救った男のしまつについて相談した。
「どうするのが一番いいかな」
 二人はラツールのそば
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