うことにはなれていると見え、要領《ようりょう》よく身軽に、しずかにするすると下りていった。
ラツールの倒れている中段の岩までは、上から測《はか》って十四五メートルあった。ダビットはついにそこへおりつくことに成功した。彼はさっそくラツールの身体を調べにかかった。
「ダビット。どうだ。生きているか。けがをしているか」
ケンは手をメガホンのようにして、下にいる同僚にたずねた。
「……大丈夫だ、生きている。大したけがはない。しかし弱っている。なんか注射でもしてやりたい。それから多分水と食物だろう」
ダビットは下から報告してきた。
玉太郎はラツールが生きていると聞いて、たいへんうれしかった。大したけがをしていないとは幸運だ。たぶん彼は、永いあいだ食物も何もとらないので弱り切っているのだろう。
「やっぱり、ぼくが下りていかないとだめだな。それではと……」
ケン監督は、注射薬とその道具を持っていたので、下へおりていく決心をした。そこで上でロープをひっぱっている人数が二人になるので、それでは力が足りないから、伯爵と玉太郎をうながして、ロープのはしの方を、後方《こうほう》にとび出している手頃な
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