いた。「とんでもない。これは大事なものだ。貸すことはできない。ぜったい出来ない」
伯爵のようすは、いよいよただごとではなかった。玉太郎は、自分の方の味方をふやすために、あたりを見まわして、ケンとダビットの姿をもとめた。
と、その二人は、岩頭からのりだすようにして、しきりに恐竜の生態《せいたい》を映画にとっていて、ほかのことはぜんぜん注意をはらっていなかった。それもむりではない。さっき第一回の撮影に大失敗し、そのあと突然ふってわいたすばらしい恐竜洞の光景をつかまえ、今こそすばらしい機会だ、思う存分フィルムへとってしまえと、二人の映画人は夢中になっているのだった。
玉太郎は急に自分ひとりがそこにとりのこされているような気がして、おもしろくなかった。
彼は、愛犬ポチのことを思い出した。ポチを呼ぶために、口笛を吹こうとしたが、その直前に思いとどまった。恐竜は口笛がきらいなんではなかったか。口笛を吹いて、せっかくおとなしくしている恐竜をよび、巨獣《きょじゅう》どもを怒らせてはたいへんだ。
口笛を吹くのをやめたかわりに、玉太郎は岩鼻から前半身をのりだして、崖の下をながめた。
下はすごい
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