伯爵がしゃがれ声でさけんだ。しかしそのことばの意味は、玉太郎には通じなかった。玉太郎は、老伯爵がいよいよきみょうなうなり声をあげるので気味がわるくなり、どうしたのですかと、又たずねた。
「どうもしない。どうもしない。君、君なんかには絶対に関係ないことだ」
 伯爵は、口ごもりながら、そうべんかいして、玉太郎をぐっとにらみつけた。
「そんならいいですが、あなたはなぜ、さっきから昂奮していらっしゃるんですか、伯爵」
 玉太郎は、そういわないで、いられなかった。
「伯爵? あ、そうか。なに、わしが昂奮しているって、……あははは、とんでもない。わしは北氷洋の氷魂《ひょうかい》のように冷静だ」
 なんだかわけのわからぬことを伯爵はさけんで、やっぱり昂奮していた。しかし彼は自分の昂奮を極力《きょくりょく》他人に知られたくないようすであった。とにかく、そのとき以来、伯爵は急にじょうきげんにかわったことはたしかであった。いったい何がこの老人を、こんなにうれしがらせているのであろうか。
「伯爵。その望遠鏡を、ちょっとぼくにかして下さいな」
「この望遠鏡を!」伯爵は、起きなおって例の望遠鏡をしっかり胸にだ
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