のないおそろしい形相《ぎょうそう》だった。
「ああーッ。君なんか、君なんかの知ったことではない」
 伯爵はいつもの伯爵とは別人《べつじん》のように、ごうまんな態度でいいはなった。そしてまた望遠鏡をとりあげて、洞窟のまん中あたりをさがしにかかるのだった。
 そのとき、洞窟の中で、荒々しい羽ばたきをしてしきりに上になり下になり、たたかっている怪鳥が二羽あったが、それがそのとき、たがいにくちばしでかみあったまま、洞窟の天井《てんじょう》から下へ、石のように落ちて来た。そしてあっという間に、一つの平らな岩の上で昼寝をしていたらしい一頭の恐竜に、どさりとぶつかった。
 怪鳥は絹《きぬ》をさくようなさけび声をあげるし、恐竜もまただしぬけのしょうとつにびっくりしたと見え、巨体をゆすると、ざんぶりと海水の中へ身を投げた。そのあたりが、きらきらと、まぶしく光った。それは、海水の飛沫《ひまつ》が、日に照りはえたようでもあったが、それにしては、あまりに強い光のように思われた。しかしそのきらきらきらは、恐竜がそれまでに腹ばいになっていた岩の上で特にきらきらきらとかがやいたように見えた。
「ううーッ。あれだ」

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