《はくしゃく》の昂奮《こうふん》
玉太郎はじっと伯爵の動作《どうさ》を、それとなく注意していた。
伯爵は、何ものかにつかれた人のように、そばに玉太郎がいるのにも気がつかないらしく見えた。その伯爵は、急に一声《ひとこえ》うなると、岩のうえに腹ばったまま、筒型《つつがた》の望遠鏡をとりだして、目にあてた。そして前より熱心に、洞窟の多島海のまん中あたりを見つめているのであった。
(なんだろう。伯爵は、ひじょうに自分の気になるものをさがしているらしい。なにをさがしているのだろうか。この前この島へ来てここへ残していった探検隊員をさがしているのではなかろうか。それとも、恐竜よりも、もっと珍らしい前世紀の動物をさがしているのであろうか)
玉太郎は、いろいろと考えまわしたが、すぐにこの答えは出なかった。
「ううん、そんなはずはない」
伯爵は、ひくい声で、苦しそうにつぶやいた。
「伯爵。どうしたんです。なにをさがしているんですか」
玉太郎は、ついに伯爵にたずねた。
すると伯爵は、くわっと眼をむき、大口をあいて、玉太郎から身をひき、にらみつけた。その顔付きは、玉太郎がこれまで一度も見たこと
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