かしきりに身体をすりよせてくる者があった。玉太郎は、その者のために、横へおされて、姿勢をかえないと落ちるおそれがあるのに気がついた。「何者か、この無遠慮《ぶえんりょ》な人は」とふりかえると、なんのこと、それは探検隊長のセキストン伯爵だった。
(あ、この老人も、こわがっているんだな)と、玉太郎はちょっとおかしくなった。伯爵は、こわいものだから、玉太郎の体をかげに利用して、こわごわ岩鼻のむこうを眺めようとしているのであろうと、玉太郎は初めはそう思ったのだ。
 ところが、それにしてはへんなところがあるのに、玉太郎は気がついた。というのは、伯爵の両眼《りょうがん》は、くわッと大きくむかれていた。まばたきもしない。前方の一つところを、じいッと見つめているのだった。
 その視線をたどってみると、どうやら伯爵の視線は、洞窟の海水のひたしている中央部あたりにつきささっているらしい。恐竜は、一頭は岩の上にはい上っているが、他の三頭はもっと左側へよったところで、あいかわらずふざけていたから、伯爵は恐竜を見つめているのではない。
 なにごとだろう。伯爵は、何を考え、何をしようとしているのか。


   伯爵
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