進していった。
「おや、どこからか風が吹いて来る」
 玉太郎が、一大発見をした。
「おお、そうだ。たしかに風が通っていく」
「やっぱり生《なま》ぐさい風だね」
「いや、さっきの生ぐさい風とはすこしちがうようだ」
 監督ケンが、首をひねる。
「恐竜の呼吸がここまでとどいているんじゃないかね。すると、われわれは恐竜夫人がくわッとあいた口の前へ出ていて、たべられる直前にいるのじゃないかね」
 ダビット技師がふるえ声を出す。
「大丈夫でしょう。ポチがおとなしくしているから、まだ危険はせまっていないようですよ」
 玉太郎は自信のあるところをのべた。
「そうかしら。あの犬ころの頭脳は、ほんとうに信頼するに足るんかね」
 技師が、まじめな顔をして、玉太郎にたずねた。
「まあ、信頼するに足りますよ」
「まあ――とは気にいらないね。あの犬は気がへんになることもあるのかね」
「そうですね。このごろ、時によると、急にさわぎ出すんです」
 玉太郎は、この前、汽船の上でポチが見えない何物かにむかってほえたてたことを思い出したのだ。
「おーい、早くこい。光がさしこんでいるところが見つかった」
 前方で監督ケンの声
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