は君がかけたんだろう」
「たしかにぼくがかけた。おやおや、これではだめだ。戸がすいているから、鍵をかけても開くんだもの」
 ぼくたちは、大急ぎでそれを箱の中にしまった。そしてあとでボーイが支配人をつれて、ぼくの部屋へおそるおそるやって来たときには、ちゃんと片づいていた。ぼくたちはボーイが夢を見ながらこの部屋へ来て、大怪物を見たような気がしたのだろうといって、追いかえした。
 しかし、こうなると、この荷物をあまり永くホテルへはおいておけない。そこでその夜、ぼくたちはこの荷物を海岸のギネタ船渠《ドック》の構内にあるぼくたちの潜水艇の中へはこびいれた。あいにく月はない。月は夜中にならないと出ない。
 ぼくたちは、その夜、この豆潜の中で眠った。
 夜明けの二時間前である午前三時に、ぼくたちは起き出た。片《かた》われ月が空にかかっている。その光をたよりにぼくたちは、恐龍の[#「恐龍の」は底本では「恐竜の」]首をマストにとりつけた。
 夜明けをあと三十分にひかえて、ぼくたちは恐龍号の昇降口《しょうこうぐち》をぴったりと閉め、そしていよいよ出港するとすぐ潜航にはいった。ずっと沖合《おきあい》へ出てから浮上した。
 艇長《ていちょう》と見張番とを、二人で、かわるがわるすることにした。はじめはサムが艇長で、ぼくが見張番をやった。
 見張番は双眼鏡で、水平線三百六十度をぐるっと見まわして、近づく船があるかと気をつけるのだ。そのほかに、ときどき空へも目を向けて、飛行機に気をつける。飛行機はおどかすことができまいと思った。おどかせるのは船だけだ。船は見えたら、急いで潜航《せんこう》するのだ。そして船がいよいよこっちへ近づいたら、そのときにこっちはぬっと海面へ浮上《ふじょう》する手筈《てはず》にしてあった。
 第一日は、大した相手にぶつからなかった。なにしろこのギネタの町は、そんなに繁盛《はんじょう》している町ではないから、一日のうちに、入港船も出港船も一隻もないことがめずらしくないのである。だから、港外の沖合に待っていたが、その日はついに獲物《えもの》がこなかったのだ。
「今日はだめだったね」
 帰って来てから、ぼくはサムにいった。
 するとサムは、鞄《かばん》の中から海図を出してきて、卓上《たくじょう》にひろげながら、
「今日のところでは、毎日あぶれるかもしれない。もう三十マイル沖合いに出ると、主要航路にぶつかるんだ。つまり、このへんだ。この主要航路に待ってりゃ、かなり大きい汽船が通ると思うよ。三十マイル往復はちょっと骨が折れるけれど、明日はやってみないか」
「ふーん。やってみよう」というわけで、翌日はエンジンを全速にはたらかせて遠出をした。
 ぼくもサムも、昨日と今日の見張で、すっかり陽に焼けて、黒くなってしまった。
「ここもだめじゃないか」ぼくがいった。
「いや、気永《きなが》に待たなくちゃだめだよ。世界中の汽船がここに集まってくるわけのものじゃあるまいし、もっとがまんすることだ」
 と、サムは大人のような口をきいた。
 しかし、彼もやっぱりつまらんと見え、その日|帰航《きこう》の途についたとき、
「まだ、店開《みせびら》きをやっていないんだから、これから小さな船でもなんでも見つけ次第、一度おどかしてみようじゃないか」と、いった。
「うん、それがいい。よし、第一の犠牲船《ぎせいせん》を見つけてやるぞ」
 ぼくは見張りについた。
 港まで、あと海上三マイルというところで、ぼくは五、六艘のカヌーが帆を張って走っているのを認めた。一日の漁をおえてギネタの港へもどっていく現地人の舟であった。
「見つけた。六隻《ろくせき》よりなる船団《せんだん》!」
「えっ、六隻よりなる船団だって。おい、よく見ろよ。それは艦隊じゃないのか。艦隊をおどかしたら、大砲やロケット弾でうたれて、こっちはこっぱみじんだぞ」
 サムはおそれをなしている。
「よく見た。六隻よりなる船団なれども……」
「なれども――どうした」
「帆を張った現地人のカヌーじゃ」
「なんだ、カヌーか。カヌーじゃ、おどかしばえもしないが、店開きだから、やってみよう」
 そして、かねての手筈《てはず》どおりやった。すぐさま恐龍号は潜航にうつり、カヌー舟団を追い越した。そして、ぬーっと浮上《ふじょう》にうつったのである。恐龍はかま首をもたげ、ゆらゆらとふりながら、現地人の、カヌーをにらみつけた。
 どぼん、どぼん。ばたん、ばたん。
 きゃーっ。きゃきゃーっ。
 えらいさわぎだった。現地人たちは、手にしたかい[#「かい」に傍点]をほうり出し、大急ぎで海中にとびこんだ。
 ぼくたちは、潜望鏡《せんぼうきょう》でこの有様を見て、おかしくて涙が出て、とまらなかった。
 あまり永く恐龍の姿を出していると、正体を見破られる
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