ろう。いやもっと気をつけて見るなれば、その空樽を支《ささ》えた壁体《へきたい》の隅が縦《たて》に裂《さ》けて、その割れ目に一つの黒影が滑《すべ》りこんだのを認めることができたであろう。
 そこは隠されたる秘密階段で、さらにまた深い地底へ続いていた。用心ぶかくソロソロと降りてゆく黒影の人物の手は休みなしに懐中電灯の光芒《こうぼう》の周囲《まわり》の壁体を照らしていた。そのうちにどうした拍子《ひょうし》かその反射光《はんしゃこう》でもって顔面《がんめん》がパッと照らしだされたが、それを見ると、この黒影の人物は、かなりがっちりした骨組《ほねぐみ》の巨人で、眼から下を黒い布《ぬの》でスッポリと覆い、頭には帽子の鍔《つば》を深く下げていた。覆面の怪漢――そういえば、これは例の問題男の青竜王と寸分ちがわぬ服装をつけていた。おお、いよいよ青竜王が乗りこんで来たのであろうか。
 彼は静かに階段を下りていった。下はかなり広いらしい。江戸時代の隠《かく》し蔵《ぐら》というのはこんな構造ではなかったか。――下では何をしているのか、ときどきゴトリゴトリという物音が聞えるばかりで、いつまで経《た》っても彼は出て
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