」
そういった一郎の態度には、明《あきら》かに動揺の色が見えたが、ジュリアは気がつかないようであった。
青竜王の懸けた電話とは違って、本庁の方へは深更《しんこう》に及んでも「痣蟹ノ屍体ハ依然トシテ見当ラズ、マタ管下《カンカ》ニ痣蟹ラシキ人物ノ徘徊《ハイカイ》セルヲ発見セズ」という報告が入ってくるばかりで、大江山課長の癇癪《かんしゃく》の筋《すじ》を刺戟するに役立つばかりだった。
その真夜中《まよなか》、時計が丁度《ちょうど》十二時をうつと間もなく、今は営業をやめて住む人もなく化物屋敷《ばけものやしき》のようになってしまったキャバレー・エトワールの地下室の方角にギーイと、堅《かた》い物の軋《きし》るような物音が聞えた。エトワールの表と裏とには、制服の警官が張りこんでいるのだったけれど、この地底の小さい怪音《かいおん》は、彼等の耳に達するには余りに微《かす》かであった。一体《いったい》誰がその怪《あや》しい音をたてたのだろう。
このとき若《も》し地下室を覗《のぞ》いていた者があったとしたら、隅《すみ》に積《つ》んだ空樽《あきだる》の山がすこし変に捩《ね》じれているのに気がついたであ
前へ
次へ
全141ページ中88ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング