かたわら》を向いて、誰にいうともなく独《ひと》り言《ごと》をいった。
「覆面探偵がたしかに来て居ると思ったのに一向に見つからず、その代りに痣蟹を見つけたが、また取逃がしてしまった。この上はあすこで見掛けた西一郎を引張ってゆくことにしよう」
 しかし課長が下に下りたときには、その西一郎の姿もなくなっていた。


   パチノ墓穴《ぼけつ》の惨劇《さんげき》


 夜の幕が、帝都をすっかり包んでしまった頃、羽田航空港から本庁あてに報告が到着した。
「竜宮劇場の広告気球を探しましたが、生憎《あいにく》出発が遅かったので、三千メートルの高空まで昇ってみましたが、遂《つい》に見つかりませんでした。そのうちに薄暗《うすやみ》になって、すっかり視界を遮《さえぎ》られてしまったのでやむなく下りてきました。まことに遺憾《いかん》です」
 捜査本部に於《おい》ても、それはたいへん遺憾なことであった。せっかく屋上に追いつめた痣蟹を逃がしてしまったことは惜《お》しかった。しかしいくら不死身《ふじみ》の痣蟹でも、そんな高空に吹きとばされてしまったのでは、とても無事に生還することは覚束《おぼつか》なかろうと思われ
前へ 次へ
全141ページ中82ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング