かたわら》を向いて、誰にいうともなく独《ひと》り言《ごと》をいった。
「覆面探偵がたしかに来て居ると思ったのに一向に見つからず、その代りに痣蟹を見つけたが、また取逃がしてしまった。この上はあすこで見掛けた西一郎を引張ってゆくことにしよう」
しかし課長が下に下りたときには、その西一郎の姿もなくなっていた。
パチノ墓穴《ぼけつ》の惨劇《さんげき》
夜の幕が、帝都をすっかり包んでしまった頃、羽田航空港から本庁あてに報告が到着した。
「竜宮劇場の広告気球を探しましたが、生憎《あいにく》出発が遅かったので、三千メートルの高空まで昇ってみましたが、遂《つい》に見つかりませんでした。そのうちに薄暗《うすやみ》になって、すっかり視界を遮《さえぎ》られてしまったのでやむなく下りてきました。まことに遺憾《いかん》です」
捜査本部に於《おい》ても、それはたいへん遺憾なことであった。せっかく屋上に追いつめた痣蟹を逃がしてしまったことは惜《お》しかった。しかしいくら不死身《ふじみ》の痣蟹でも、そんな高空に吹きとばされてしまったのでは、とても無事に生還することは覚束《おぼつか》なかろうと思われ
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