囲《かこ》んでしまうのだ。それ、懸れッ」
 大江山課長は鮮《あざ》やかに号令を下した。が、そのとき塔の向うにフラフラ動いていた竜宮劇場専用の広告気球の綱が妙にブルブルと震《ふる》えたかと思うと、塔の上に痣蟹の姿が見えたと思う間もなく、彼の身体はスルスルと宙に上っていった。
「呀《あ》ッ。痣蟹が気球の綱を切ったぞオ」
 と誰かが叫んだが、もう遅かった。華《はなや》かな気球はみるみる虚空《こくう》にグングン舞いのぼり、それにぶら下る痣蟹の黒い姿はドンドン小さくなっていった。
「うん、生意気《なまいき》なことをやり居《お》った哩《わい》」と大江山捜査課長は天の一角を睨《にら》んでいたが「よオし、誰か羽田航空港《はねだこうくうこう》に電話をして、すぐに飛行機であの気球を追駈けさせろッ」と命令した。
 一同はいつまでも空を見上げていた。
 航空港からは、直ちに速力の速い旅客機と上昇力に富んだ練習機とが飛び上って、気球捜査に向ったという報告があった。それを聞いて一同は、広告気球の消え去った方角の空と羽田の空とを等分《とうぶん》に眺《なが》めながら、いつまでも立ちつくしていた。
 大江山課長は、傍《
前へ 次へ
全141ページ中81ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング