からぬ勇敢さをもって、いきなり痣蟹の背後《うしろ》から組みついた。
「なにを生意気な小僧《こぞう》め!」
痣蟹は落ちつき払って一郎を組みつかせていた。
「ジュリア、いまに思い知るぞオ」
という声の下に、彼はエイッと叫んで身体を振った。その鬼神《きじん》のような力に、元気な一郎だったが、たちまち※[#「てへん+堂」、第4水準2−13−41]《どう》と振りとばされてしまった。
「さあ皆で懸《かか》れ、警官隊も来ているから、大丈夫だ」と声を聞きつけて、応援隊が飛びこんで来た。痣蟹は警官隊と聞くと舌打ちをして、入口に殺到《さっとう》した劇場の若者を押したおし、廊下へ飛びだした。アレヨアレヨという間に、階段から下へ降りようとしたが、下からは駈けつけた大江山課長等がワッと上ってきたのを見ると、
「やッ」
と身を翻《ひるがえ》してそこに開いていた窓を破って屋上へ逃げた。
「それ、逃《の》がすなッ」
一同はつづいて、屋上に飛び出した。痣蟹は巨大な体躯《たいく》に似合わず身軽に、あちこちと逃げ廻っていたが、とうとう一番高い塔の陰に姿を隠してしまった。
「さあ、三方《さんぽう》から彼奴《きゃつ》を
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