くと、彼女が頸《くび》にかけた大きいメタルのついた頸飾りに手をかけ、ヤッと引きむしった。糸が切れて、珠《たま》がバラバラと床の上に散った。痣蟹はそれには気も止めず、メタルを掌《てのひら》にとって器用にも片手でその裏を開いた。中からは何やら小さい文字を書きこんだ紙片がでてきた。痣蟹はニッコリと笑い、
「やっぱり俺のものになったね。――」
「出ておゆき。ぐずぐずしていると人が来るよ」
「どっこい。もう一つ貰いたいものが残っているのだ。うぬッ――」
 痣蟹はピストルを捨てると、猛虎《もうこ》のように身を躍《おど》らせてジュリアに迫った。その太い手首が、ジュリアの咽喉部《いんこうぶ》をギュッと絞めつけようとする。
「アレッ――」
 と叫ぶ声の下に、化粧鏡がうしろに圧《お》されて窓硝子《まどガラス》に当り、ガラガラと物凄い音をたてて壊《こわ》れた。
 その途端《とたん》だった。入口の扉《ドア》をドンと蹴破って、飛びこんで来た一人の、青年――
「ああ、一郎さん、助けてエ――」
「曲者《くせもの》、なにをするかア、――」
 青年は西一郎だった。彼はジュリアに返事をする遑《いとま》もなく、彼に似合わし
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