たわ。ほんとにあたし感謝しますわ。でもこのことは、誰にも云わないで下さいネ」
「ええ、大丈夫です。その代《かわ》り、何か犯人らしいものを見なかったか、教えて下さい」
「犯人? 犯人らしいものは、誰もみなかったわ――」
といっているところへ、電話がかかってきた。それは出てきた支配人が、直《す》ぐ西一郎に会おうという電話だったのである。
それから一郎は、支配人の室に行った。ジュリアの口添《くちぞ》えがあったから、すべて好条件で話が纏《まとま》った。今日は見習かたがた「赤い苺の実」の三|場《ば》ばかりへ顔を出して貰いたいということになった。そして大部屋《おおべや》の人たちに紹介してくれた。
一郎はそれを報告のために、ジュリアの部屋に行ったが、鍵がかかっていた。それも道理《どうり》で、ジュリアはいま舞台に出て喜歌劇《きかげき》を演じているところだった。舞台の横のカーテンの陰には批評家らしい男が二人、肩を重《かさ》ねんばかりにして、ジュリアの熱演に感心していた。
「ジュリアはたしかに百年に一人出るか出ないかという大天才だ。見給え、どうだい、あの熱情《ねつじょう》とうるおいとは……。今日はこ
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