お話をしていたんですが、待たせてあった、あたしの自動車の警笛《けいてき》が聞えたので、ちょっと待っててネ、すぐ帰ってくるわといって四郎さんを残したまま、日比谷の東門《ひがしもん》の方へ行ったんですの。そこで自動車を見つけたので、四郎さんも連《つ》れてゆくつもりで自動車で迎えにゆき、再び五月躑躅の陰へいってみると、四郎さんが殺されていたのですのよ。あたしはハッとしたんですが、人気商売の悲しさにはぐずぐずしていると人に見つかって大変なことになると思ったので、引返《ひきかえ》そうとしましたが、その日四郎さんに見せて貰った日記のなかにあたしのことが沢山書いてあったものですから、これを残しておいてはいけないと思って、いま差上げただけの頁を破ってきたんですわ。すると間もなく皆さんに見つかってしまったんです。それがすべてですわ」
「ああ、そうですか」と一郎は大きく肯《うなず》きながら「では耳飾の宝石も、そのときに落したんですね。これも拾われては蒼蠅《うるさ》いことになるから、後で探したというわけですね」
「仰有《おっしゃ》るとおりですわ。宝石のことは、楽屋へ入ってから気がついたんですの。随分探しまし
前へ 次へ
全141ページ中70ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング