だろう。
「ジュリアさん。四郎は貴女に、誰からか恨《うら》みをうけているようなことを云っていませんでしたか」
 これでみると、一郎はやはり愛弟《あいてい》四郎を殺害《さつがい》した犯人を探しだそうとしているものらしい。
「ああ、一郎さん」とジュリアは苦しそうに顔をあげ「あたし何もかも申しますわ。そして貴方の弟さんの日記帳から破ってきた頁《ページ》をおかえししますわ」
 ジュリアは衣裳函《いしょうばこ》のなかから、引き裂《さ》いた日記をとりだして、一郎に渡した。それは四郎が殺された日、大辻が始めに屍体の側で発見し、二度目に見たとき裂かれていた四郎の自筆《じひつ》の日記に相違《そうい》なかった。一郎はそれを貪《むさぼ》るように読み下《くだ》した。
「それをよく読んで下されば分るでしょうが、四郎さんとあたしとは、千葉《ちば》の海岸で知合ってから、お友達になったんです。それは只の仲よしというだけで、あたしは恋をしていたんじゃありませんのよ、どうかお間違いのないように、ね。――その日も四郎さんはあたしに会いに来たんですわ。それで夕方になり、四郎さんと日比谷を散歩して、あの五月躑躅《さつき》の陰で
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