授がベルの音を聞いて法医学教室の廊下へ出ていった隙《すき》に、一郎はかねて信じていたところを行ったのだった。彼は四郎の屍体の口腔《こうくう》を開かせ、その中に手をグッとさし入れると咽喉の方まで探《さ》ぐってみたのが、果然《かぜん》手懸《てがか》りがあって、耳飾の宝石が出てきた。実は蝋山教授を煩《わずら》わして食道や気管を切開し、その宝石の有無《うむ》をしらべるつもりだったけれど、怪《あや》しいベルの音を聞くと、早くも切迫《せっぱく》した事態を悟《さと》り、荒療治《あらりょうじ》ながら決行したところ、幸運にも宝石が指先《ゆびさき》にかかったのであった。素人《しろうと》にしては、まことに水ぎわ立った上出来《じょうでき》の芸当《げいとう》だった。後から闖入《ちんにゅう》して屍体を奪っていった痣蟹をみすみす見逃がしたのも、彼がこの耳飾りの宝石を手に入れた後だったから、その上危険な追跡をひかえたのであろうとも思われる。とにかくジュリアの耳飾の宝石は四郎の口腔から発見されたのだ。なぜそんなところに入っていたかは問題であるが、一郎がジュリアに発見の個所《かしょ》をことさら偽《いつわ》っているのは何故
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