に知れると面倒《めんどう》な品物です。お土産として、貴女にお返しします」
ジュリアは一郎に悪意のないのを認めたらしく、急いで青い宝石を掌《てのひら》の中に握ってしまうと、激しい感情を圧《おさ》え切れなかったものか、ワッといって化粧机の上に泣き崩《くず》れた。それにしても一郎は落ちた耳飾の宝石を何時何処で拾って来たのだろう。
「ジュリアさん。云って聞かせて下さい。貴女は四郎と日比谷公園の五月躑躅《さつき》の陰で会っていたのでしょう」
「……」ジュリアは泣くのを停《や》めた。
「僕はそれを察しています。つまり耳飾りの落ちていた場所から分ったのですが」
「これはどこに落ちていたのでしょう」とジュリアは顔をあげて叫んだ。
「それは四郎の倒れていた草叢《くさむら》の中からです」
「嘘ですわ。あたしは随分《ずいぶん》探したんですけれど、見当りませんでしたわ」
「それが土の中に入っていたのですよ。多勢《おおぜい》の人の靴に踏まれて入ったものでしょう」
「まあ、そうでしたの。……よかったわ」
それはすべて一郎の嘘だった。本当をいえば、彼は昨夜《ゆうべ》、四郎の屍体からそれを発見したのだった。蝋山教
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