上ることができます」
 一郎はジュリアに頼んで、レビュウ団の座員見習《ざいんみならい》として採用してもらうこととなったのであった。彼は長身の好男子だったし、それに音楽にも素養《そよう》があるし、タップ・ダンスはことに好きで多少の心得《こころえ》があったので、この思い切った就職をジュリアに頼んだわけだった。日頃|我儘《わがまま》な気性《きしょう》の彼女だったが、弟を殺された一郎に同情したものか、快くこの労《ろう》をとって支配人の承諾を得させたのであった。
「あら、改《あらた》まってお礼を仰有《おっしゃ》られると困るわ。――だけど勉強していただきたいわ、あたしが紹介した、その名誉のためにもネ」
「ええ、僕は気紛《きまぐ》れ者で困るんですが、芸の方はしっかりやるつもりですよ」
「頼母《たのも》しいわ。早くうまくなって、あたしと組んで踊るようになっていただきたいわ」
「まさか――」
 と一郎は笑ったが、ジュリアの方はどうしたのか笑いもせず、夢見るような瞳をジッと一郎の面《おもて》の上に濺《そそ》いでいたが、暫くしてハッと吾れに帰ったらしく、始めてニッコリと頬笑《ほほえ》んだ。
「ホ、ホ、ホ、ホ
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