《しんかん》とした夜の幕を破ってときどきガチャリという金属の触《ふ》れあう音が聞えた。その怪《あや》しい物音が、室内に今起りつつある光景をハッキリ物語っているのだった。
 そこは馬蹄形《ばていがた》の急な階段式机が何重にも高く聳《そび》えている教室であった。中央の大きな黒板に向いあって、真白な解剖台がポツンと置かれてあった。その傍にはもう一つ小さい台があって、キラキラ光る大小さまざまのメスが並んでいた。解剖台の上には白蝋《はくろう》のような屍体が横たわっているが、身長から云ってどうやら少年のものらしい。それを囲《かこ》んで二人の人物が、熱心に頭と頭とをつきあわさんばかりにしていた。一人は白い手術着を着て、メスだの鋏《はさみ》だのを取りあげ、屍体の咽喉部《いんこうぶ》を切開《せっかい》していた。もう一人は白面《はくめん》の青年で、形のよい背広に身を包んでいた。この手術者は法医学教室の蝋山《ろうやま》教授、白面の青年は西一郎と名乗る男だった。そこまで云えば、台の上に載《の》った屍体が、吸血鬼に苛《さいな》まれた第一の犠牲者である西四郎のものだということが分るであろう。
「どうも素人《しろう
前へ 次へ
全141ページ中57ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング