ているのだろう。覆面探偵青竜王は戦慄《せんりつ》すべき吸血鬼事件に対しいまや本格的に立ち向う気色《きしょく》をみせている。彼の行方《ゆくえ》はいずれこの事件に関係のある方面であろうということは改《あらた》めて謂《い》うまでもあるまい。だがその行先は暫《しばら》く秘中《ひちゅう》の秘として預《あずか》ることとし、その夜更《よふけ》、大学の法医学教室に起った怪事件について述べるのが順序であろう。
     ―――――――――――――――
 宏大な大学の構内は、森林に囲まれて静寂そのものであった。殊にこれは夜更の十二時のことであった。梟《ふくろう》がときどきホウホウと梢《こずえ》に鳴いて、まるで墓場のように無気味であった。木造《もくぞう》の背の高い古ぼけた各教室は、納骨堂が化けているようであった。そしてどの窓も真暗であった。ただ一つ、消し忘れたかのように、また魔物の眼玉のように、黄色い光が窓から洩《も》れている建物があった。それは法医学教室の解剖室《かいぼうしつ》から洩れてくる光だった。
 近づいてみても、カーテンが深く下ろしてあるので窓の中にはなにがあるのやら、様子が分らなかった。ただ森閑
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