ることをすべて語った。青龍王は曲《まが》ったパイプで刻《きざ》み煙草《たばこ》をうまそうに吸いながらじっとそれに耳を傾けていた。
「すると勇君の説によると、はじめ五月躑躅《さつき》の陰で恋人の少女と楽しく語っていた。その話|半《なか》ばに、少女は何か用事ができて、学生を残したまま出ていった。吸血鬼は学生が独《ひと》りになったところを見澄《みす》まして、背後《うしろ》から咽喉を絞め、つづいて咽喉笛をザクリとやって血を吸ったというのだネ」
「その通りですよ、青竜王《せんせい》」
「それから、その恋人の少女は現場へ帰って来たかネ」
「いいえ」勇少年は頭を振って「僕はそれを考えて、長いこと待っていたんだけれど、とうとう帰って来なかったんです」
「それは可笑《おか》しいネ。今の話なら、必ず帰って来る筈だと思うがネ。外に恋人らしい女は誰も通らなかったのかい」
「ええ、そうですよ」と勇は応《こた》えたが、そのとき急に気がついた様子で「アッ、そういえば赤星ジュリアが近よってきたことは来たんです。でもあの人は、自動車で通りかかったんだといっていましたよ。それから自動車の中から出て来なかったけれど、ジュリ
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