から手に入れたんだい」
青竜王は課長の手を静かに払いながら、
「これですか。これを御存知なかったんですネ。なアに、痣蟹の裂けた洋服の裏に縫いつけてあったんですよ」と事もなげに云うと、その紙片を恭しく差し出しながら「では確かに貴方様にお手渡しいたしますよ」
不可解なる紙片! 一体それはいかなる秘密を物語るものであろうか。
消えた屍体《したい》
何のためか十日間あまり、事務所を留守にしていた青竜王は、キャバレー・エトワール事件の次の日の昼ごろ、ブラリと探偵事務所に姿を現わしたのだった。覆面探偵の帰還《きかん》!
その気配《けはい》を知って、奥から飛ぶように出て来たのは勇敢な少年探偵勇だった。
「ああ。青竜王《せんせい》。――僕は今日きっと青竜王《せんせい》が帰って来ると思ったんです」
といって、相《あい》も変らず頭部にはピッタリ合った黒い頭巾《ずきん》を被《かぶ》り、眼から下を三角帛《さんかくぎぬ》で隠した覆面探偵を迎えたのだった。探偵は少年の肩を両手で優しく叩いた。
「昨夜《ゆうべ》は青竜王《せんせい》、素敵でしたネ。だけど、もう僕たちを呼んで下さるかと思っていた
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