事は肯《うなず》きながら大江山課長の方を向いて「そんな逃げ路のあることを何故前もって調べておかなかったのかネ、君。早速《さっそく》キャバレーの主人を呼んできたまえ」
「はア――」
課長は面目ない顔をして、部下にキャバレーの主人を引張ってくることを命じた。
間もなく、奥から身体の大きなキチンとしたタキシードをつけた男が現れた。彼はどことなく日本人離れがしていた。それも道理だった。彼はオトー・ポントスと名乗るギリシア人だったから。
「わたくし、ここの主人、オトーでございます。――」
西洋人の年齢はよくわからないが、見たところ三十を二つ三つ過ぎたと思われるオトー・ポントスはニコやかに揉《も》み手《で》をしながら、六尺に近い巨体をちょっと屈《かが》めて挨拶《あいさつ》をした。
「君が主人かネ」と検事はすこし駭《おどろ》きの色を示しながら「怪しからん構造物があるじゃないか。この円柱《まるばしら》が二つに割れたり、それから中に階段があったり、物置に抜けられたり、一体これは如何《いか》なる目的かネ」
「それはわたくし、知りません。この仕掛はこの建物をわたくし買った前から有りました」
「ナニ前か
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